- 難聴・めまい
低音障害型感音難聴の原因と治療法
1.低音障害型感音難聴とは?
低音障害型感音難聴は、突然、低い音だけが聞こえにくくなる疾患です。同じ感音性難聴である突発性難聴に近い疾患ですが、突発性難聴では低音から高音まですべての音域の聴力が低下することに対し、低音障害型感音難聴では低音域(主に125Hz、250Hz、500Hz)が低下します。
自覚症状として、「耳がつまった感じ」、「水が入ったままで抜けない感じ」、「低い音の耳鳴り」、「自分の声が響く」を訴えて受診される方が多いです。まれにめまいを合併することがありますが、この場合はメニエール病を疑います。
低音障害型感音難聴は、メニエール病と同じく、20~40代の比較的若い女性に多く発症するといわれていましたが、最近では50~60代、あるいはそれ以上の高齢の方にも増えています。
2.低音障害型感音難聴の原因
低音障害型感音難聴は、内耳の中でも聴力と関連する蝸牛でリンパ液が過剰となり、水ぶくれが起こることで生じるとされています。これを内リンパ水腫といいますが、内リンパ水腫が起こると、内耳の栄養血管が圧迫され、内耳の血流不足や神経伝達に障害が起きます。リンパ液が増加する原因ははっきりとわかっていませんが、体質的なものが大きいと言われています。ただし、ストレス、睡眠不足、過労、風邪なども誘因となるとされています。
メニエール病も低音障害型感音難聴と同じく、内リンパ水腫が原因とされていますが、蝸牛だけではなく、平衡感覚と関連する前庭でも内リンパ水腫が起こり、めまいを引き起こします。
3.低音障害型感音難聴の症状
低音障害型感音難聴は、ある日、突然、症状が出現します。
「耳がつまった感じがする。」
「耳に水が入ったままで、抜けない感じが続く。」
「ゴー、ジーといった低い音の耳鳴りがする。」
「自分の声が響く。」
「周りの音が二重に聞こえる。響く感じがする。」
「低い声が聞き取りにくい。」
といった症状を訴える方が多いです。
また、日によって症状の強さが違ったり、1日のうちで症状が変動することもあります。
一方で、同じような耳のつまりを起こす疾患は様々あり、耳管狭窄症、耳管開放症、滲出性中耳炎なども鑑別に挙がるため、いずれに該当するかは聴力検査を行わないと判断がつきません。
また、低音障害型感音難聴と突発性難聴はともに内耳の障害が原因で起こる感音難聴ですが、以下のような違いがあります。
4.低音障害型感音難聴の治療
低音障害型感音難聴は、軽症例では自然治癒する場合もありますが、発症した時点ではそれは判別できません。そのため、早期の治療開始が重要で、一般的に発症後2週間以内に治療を開始すれば、改善する確率が高いとされています。
治療は薬物療法が中心で、通院での内服治療で改善することがほとんどですが、難聴が高度な場合や難聴が進行する場合、糖尿病などの合併症をお持ちの場合は入院が必要になることがあります。
【薬物療法について】
漢方薬(柴苓湯、五苓散など):余分な水分を体外に排泄させる
浸透圧利尿剤(イソバイドなど):内耳に貯留しているリンパ液を排出し、むくみを取り除く
血管循環改善薬(アデホスコーワなど):内耳の血流を正常に戻す
まずはこれらの薬剤を併用し、治療を開始しますが、難聴が高度な場合や難聴が進行性の場合はステロイド剤(プレドニン、リンデロンなど)を併用します。
5.低音障害型感音難聴の予後
低音障害型感音難聴に対する薬物療法の治療効果は比較的良好で、数日から数週間で改善することが多いとされており、その改善率は60-80%と言われています。一方で、ストレス、睡眠不足、過労などが誘因とも考えられており、その再発率は20-30%と、繰り返しやすいのも特徴です。
また、再発を繰り返すと、難聴も徐々に悪化する傾向にあり、発症後2-3年の経過で、5-10%がメニエール病に移行すると考えられています。
6.注意事項
・低音障害型感音難聴は、内耳のむくみの他、ストレス、睡眠不足、過労に加え、不規則な生活などが発症との因果関係を持つとされています。よって、発症を抑えるためには、むくみを減らすこと、ストレスの解消、十分な睡眠、規則正しい生活を心がけることが重要です。その他、飲酒を控える、水分補給はこまめにする(脱水は症状を悪化させる可能性があるため)、軽い有酸素運動をするといったことを日常生活で気を付けましょう。
・発症から早期の治療開始が望ましく、発症から2週間以内に治療が開始できなければ、症状が固定してしまう場合があります。よって、上記のような症状が出現した場合は、早めの受診が重要となります。
・低音障害型感音難聴は、突発性難聴と比較し、治りやすい反面、再発しやすい疾患です。また、再発を繰り返すことで、メニエール病へ移行する可能性もあるため、症状が出現した場合には自己判断せず、必ず正確な診断、適切な治療を受けること、また症状があるうちは、無理をせず、十分な休息をとることを心がけましょう。
7.さいごに
低音障害型感音難聴は難聴が軽度であることが多く、自然治癒する場合がある一方で、難聴が残存していても自分では気付かない場合も多くあります。そのため、以下の3点は非常に重要です。
・お薬は自己判断で中止しない
治療開始後、数日で症状が改善したと思っても、難聴が残存している場合があるため、処方されたお薬はすべて飲み切るようにしましょう。
・必ず治療後に聴力検査を受ける
処方されたお薬がなくなる頃に、必ず聴力検査を行い、難聴が改善しているかを確認することが重要です。症状が改善し、治癒したと思っていても、難聴が残存している場合があり、この場合は継続治療が必要です。
・再発しやすい疾患であることを理解する
前述したとおり、低音障害型感音難聴は治りやすい反面、再発しやすい疾患です。再発が疑われる場合に、前回治療終了時点で難聴が完全に治癒した状態だったか、あるいは難聴が治癒せず、残存したままの状態だったかが重要な判断材料となります。よって、治療を行った場合には、必ず聴力検査で治療効果の判定まで行うようにしましょう。
※初回に治癒せず、難聴が残ったままの状態で再発した際は、初回の難聴が残っていた所からのスタートとなります。そのため、今回も治癒しなければ、次回は更に悪化したところからのスタートとなってしまい、これを繰り返すことで、難聴は進行し、やがて内耳機能の廃絶やメニエール病への移行につながってしまいます。
※※初回治療後に症状が出現した場合は、再発かどうかを毎回、確実に診断することが重要となりますので、再発が疑われる場合は、早めに聴力検査を受けるようにしましょう。
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